[胞子培養] 3週間後 とりあえず最終回

原子体が平面上に広がるリドレイ
成長が一番良かったのでのはリドレイです。原子体が平面状に広がっていったのですが残念ながら成長はここでストップ。光と栄養素がもう少しあれば先のステージに進んだかもしれません。
胞子嚢の形状も細長く特徴的で他のビカクシダ類とは異なっていました、入っている胞子の数も少ない。
マダガスカリエンセ
初期に仮根は出たんですけどね。。。その後成長が芳しくなくあまりパッとしない。胞子に残っていたエネルギーを仮根伸長に使ってしまったためでしょうか。やはり栄養素と光がもっと必要なのでしょう。
エレファントスティス
今回の試験で一番良くわからないことになっていたのがエレファントティスです。そもそも胞子の形がいびつで不定型で発芽もかなり遅めだったのですがここに来てまとまった発芽が確認されました。しかも胞子嚢の中で!!
写真よく見てもらうと葉緑素でうっすらと緑に色づいているのが見えます。胞子のうの周りに散らばっている胞子の発芽率はあまり高くなかったのですが、ここだけ異常に発芽率が高い。同じような胞子嚢はいくつか見られたので偶然ではないのでしょう。
胞子嚢の中に残った胞子は未成熟で発芽しないと思っていましたがそうではなかったようです。
胞子の不定型といいよくわからないビカクシダの仲間です。
さて、次回培養するときは培地をしっかり選定し光源を準備して 再開したいと思います。
とりあえず簡単ティッシュ培地のビカクシダ属胞子培養はここまで。
[文献紹介]試験管培養でコロナリウムとグランデの胞子体、配偶体の成長
胞子培養の論文。コロナリウムとグランデの成長過程が写真いっぱいで載っています。
"Sporophyte and gametophyte development of Platycerium coronarium (Koenig) Desv. and P. grande (Fee) C. Presl. (Polypodiaceae) through in vitro propagation"
Reyno A. Aspiras 2010
ビカクシダ属は商業的価値が高いため野生個体は盗掘にあうことが多く絶滅の危機に脅かされています。胞子による培養技術の開発はこのような希少価値の高い植物を維持するために不可欠です。
この論文ではコロナリウムとグランデの胞子嚢や胞子の形態と胞子から胞子体が成長するまでの培地の影響が報告されています。
注目したいのは培地の成分で、糖分があると胞子の吸水、発芽が早まるとのこと。糖分はエネルギーの材料なので胞子内部の代謝が活発になるのではないかと考えられています。
コロナリウムはグランデよりもやや成長が早く27日程度でハート型の前葉体ができ、グランデは33日ほどかかるようです。
胞子体ができたらヘゴ板とマホガニーの枝に直接くくりつけ温室で栽培するとマホガニーが成長が良かった。マホガニーの孔が保水性が良かったのが原因かもしれないとのこと。
[引用]
RA Aspiras - Saudi journal of biological sciences, 2010 Sporophyte and gametophyte development of Platycerium coronarium (Koenig) Desv. and P. grande (Fee) C. Presl.(Polypodiaceae) through in vitro
コロナリウムとグランデの胞子培養をしようという時に参考になりそうな論文です。胞子の形から胞子体が作られるまでどれくらいかかるのかが記載されています。
胞子用の培地に糖分を加えると成長が良くなるそうです。これはいま準備しているリドレイ、エレファントティス、マダガスカリエンスの胞子培養にも応用できそうです。培地に混ぜるか、もしくはスプレーでもいいかもしれませんがカビとの戦いになりそうです。
ハンギング用の下地材としてヘゴ板はよく使われますが、素材としての保水性がそれほど良くないようです。ただビカクシダの栽培では水苔を挟むことが多いと思うので直接は関係がないのかもしれません。
[胞子培養] 7−8日目 ようやくエレファントティス胞子に変化が!
胞子が成熟していない疑惑のあったエレファントティスですが本日無事に発芽が確認されました。
黄色い胞子からぴょこんと仮根が伸びています。やはり色のついていた胞子は成熟していたようです。あきらめなくて好かった。
初期のエレファントティスの胞子の画像を見返してみると、もともとはかなりしわしわですね。しわしわ胞子群のなかでもしっかり色づいて成熟していた胞子は水を吸収して膨張し発芽することができるということが今回示せたと思います。
plant-animal-ecology.hatenablog.com
さて、リドレイとマダガスカリエンセですがこちらはしっかり成長を続けています
どちらも仮根が伸長し胞子内部に葉緑素(クロロフィル)が合成され始めました。これが葉緑体なのかはわかりませんがそろそろ本格的に光合成が始まるようです。画像はマダガスカリエンセですが、リドレイでも同じような色素が見え始めました。ただし、今の所は光学顕微鏡を使わないと胞子の変化がわからないので目視で緑色を確認できるようになるにはもう少しかかりそうです。
[胞子培養] 6日目 リドレイ発芽
昨日リドレイの胞子が裂けていることを報告しましたが、本日6日目にはっきりと発芽が確認されました。
発芽
わかりますか?胞子からむにゅっと透明なものが出ているのが。おそらく仮根だと思いますが成長するまではっきりとはわかりません。
画像はコントラストを大分いじっています。透明で非常に小さいので顕微鏡下で観察していてもわかりにくいです。カメラで撮影だけだと白飛び」してほとんど写りません。
昨日報告した5日目のマダガスカリエンセはもう少し伸びていたのですが、4日目はこのような状態だったのだと思います。毎日みていたのですが見逃していました。
同じような発芽は暗所に置いたタッパーでも見られましたので今回はリドレイでも光の影響はなかったみたいです。
あとはエレファントティスだけです。
[胞子培養] 5日目 マダガスカリエンセ発芽
かんたんティッシュ培地にリドレイ、エレファントスティス、マダガスカリエンセの胞子を蒔いてから毎日観察をしていたのですが特別大きな変化はなく、なんとなく水を吸って胞子の形が大きくなってるかなというくらいでした。それから本日で5日目。マダガスカリエンセの培地ではっきりと胞子の発芽を確認することができました。
マダガスカリエンセ5日目
どれが胞子かわかりますか?
正解は
これです。かなり画像が荒いのですが、黄緑の丸(胞子)から右下に根のようなものが出ているのがわかります。仮根でしょうか。
写真は胞子一つですが同じような胞子をいくつも見つけました。また、胞子がつまったままの胞子嚢をほじくってみると中に同じ状態の胞子がいっぱい詰まっているのが確認できました。はっきりと発芽したと言っていいと思います。
ちなみに暗所(引き出しの中)に置いたタッパーでも同じような状態になっていました。今回の試験ではマダガスカリエンセ胞子の発芽に光の影響はありませんでした。まあ光量をしっかり測ったわけではないので参考程度ですが。
リドレイ5日目
まだほとんど変化がないです。胞子が給水して裂けたようなものが見つかりましたがこれを発芽と言って良いのかはわかりません。
エレファントティス5日目
ほとんど変化なし!もともと胞子の形がいびつだったので少し不安です。もしかしたら未成熟かも。
そもそも白っぽい胞子嚢が結構多いです。中に入っている透明な胞子はおそらく成熟していないのでしょう。ただ黄色い胞子もそこそこあるのでこれらに期待したいと思います。
[胞子培養]1日目 ビカクシダ(リドレイ、エレファントティス、マダガスカリエンセ)の胞子をお手軽ティッシュ培地に蒔く
胞子がしっかり生きているか、成熟しているかを確認し、発芽初期の芽の状態を観察しようと思うので今回はお手軽ティッシュ培地を使いたいと思います。
この培地は時々種子植物で使うのですがあくまで発芽の確認用です。古い種子でちゃんと発芽するのかわからない時や発芽にどれくらいかかるかを知りたい時、または芽の形を確認したい時に使います。土を使わないので部屋に置いても汚れませんし、白いテイッシュの上だと植物体をしっかり観察することができます。ちゃんと植物を育てたいならもっとしっかりした培地があると思いますが、とりあえず確認のためならこれで十分です。
作り方は非常に簡単で100均のミニタッパーにティッシュをたたんで敷き詰め水をかけるだけ。
水はタッパーを裏返してもこぼれないぐらいに、ティッシュが張り付く程度で十分です。種子の場合発芽には酸素が必要ですし水が多すぎると呼吸できません。種子が水に接していれば、水は種子の方に勝手に染み込んでいきます。
胞子も種子と同じように、発芽には水と酸素(もしかしたら光も)が必要だと思いますし、失敗したら別の方法を検討します。
胞子蒔きには耳かきを使いました。
ビカクシダの胞子は量があまりないのでとても貴重です。あまり無駄遣いはできません。耳かきに少量の胞子(先端にちょびっとだけ)をのせティッシュ培地の上で反対側の端をとんとんと軽く叩きます。すると白いティッシュの上に茶色い粉(ほとんどは胞子嚢やトリコームなんですが)がふわっと広がります。この方法だと蒔き時のちから加減でどのように胞子が広がるかがわかりやすいです。
先日紹介したビカクシダたちの胞子を培地に蒔いてみました。
実体顕微鏡で観察してみるとやはり胞子だけではなく胞子嚢の破片やトリコームのようなゴミが多いです。耳かきですくった部位にもよるのでしょうが、胞子自体は1/10もありませんでした。もう一つ困ったことに一部の胞子嚢は破裂せず、中に胞子がつまったままになっています。仕方がないのでまち針を使って胞子嚢をバラバラにしておきます。ちょうど裁縫で使うマチ針の先端が胞子をいじくるのにちょうど良いサイズでした。すべての胞子嚢は無理ですがある程度胞子がバラけたのが確認できたのでこれで良しとします。
今回はそれぞれの種で2つづつタッパーを用意しました。ビカクシダには光が必要とのことなので一つは明るい場所(直射日光の当たらない窓際)にもう一つは暗い場所(引き出しの中)において観察していきたいと思います。室温は29度、胞子はしっかり成長してくれるのでしょうか。
[文献紹介]ビカクシダ実生期の施肥が成長に与える影響
ここではシダ植物に関する文献を日本語で紹介していきます。最後に引用をつけておきますので必ず原著論文を参考にしてください。
”THE EFFECT OF FERTILIZER ON GROWTH OF STAGHORN FERN AT SEEDLING STAGE”
Sawat Pimsuwan et al. 2016
タイトルにあるビカクシダですが使用しているのはコロナリウム(Platycerium coronarium)のようです。実生期ということで胞子体が数cmのものを実験対象としています。
このコロナリウムの実生をいくつかにわけ、21-21-21の固形肥料1−3g/Lと液体肥料のbiofertilizer(生物由来の葉面散布型肥料みたいですが詳細がわからない)1−3mLをやって葉の成長をみたよというものです。
結果は水だけをやったものが葉の枚数や大きさなどの成長が良かったとのこと。
著者らは肥料の成分、特に窒素がコロナリウムに対して毒性を示したのではないかと考えているようです。特にアンモニアガスや尿素のビウレット(Biuret)の悪影響があったのではないかと考察されています。
これらの窒素由来位の成分について調べてみるとアンモニアガスは高pHで尿素や有機物が分解されると発生し、ビウレットは尿素造粒工程にできるそうででどちらも種子植物に障害を及ぼすとのこと。
この論文では明らかな障害が出たわけではないようですが。胞子培養の時に尿素の利用には注意したほうがいいのかもしれません。
[引用]
Sawat Pimsuwan et al. THE EFFECT OF FERTILIZER ON GROWTH OF STAGHORN
FERN AT SEEDLING STAGE
International Journal of GEOMATE, Dec., 2016, Vol. 11, Issue 28, pp. 2879-2882
Special Issue on Science, Engineering and Environment, ISSN: 2186-2990, Japan